フランス組曲
新作案内で観てから「これは観たい」と思っていた作品、
『フランス組曲』。
アウシュビッツで命を落とした女流作家の
未完の遺稿を完成させた「奇跡の映画」。
1940年、ナチス・ドイツの占領下にあるフランス。
田舎町で厳格な義母と生活しながら、
出征した夫の帰りを待っているリュシル。
彼女の前に、ナチス・ドイツのブルーノが現れる。
占領国の男と被占領国の女、さらに人妻という立場でありながら、
共に愛している音楽を通じながら心の距離を縮めていく二人。
ふつふつとわき上がるブルーノへの思いに戸惑うと同時に、
リュシルは住んでいる田舎町しか知らず、
誰かに従うように生きてきたそれまでの自分を見つめ直す。
(2016年・イギリス/フランス/ベルギー合作)
どんなコミュニティにいてもそれぞれの立場があって、
だからこそ生じる感情が確実にあります。
何に属した自分であるのか、彼女・彼であるのか…
その立場が絡み合い、複雑に交錯する模様が痛々しく伝わってきます。
ピアノのシーンはそんなに多くはないけれど、
哀愁溢れる独特の旋律が、映画の色を一層深く濃くしていました。
何か一つが違うだけで、物事は全部変わってくるのに、
今ある結果がすべてを物語っているかと思うとやり切れなさを感じます。
特に、この問題を扱う時は残酷さや非情さは必ずついてくるものですが。
先述したように、音楽が全面に出ていると言う事はないけれど、
響きあう思いと音楽を、特に最後まで観たら深く感じざるを得ない、
余韻の残る悲しい作品でした。